【代表交代インタビュー】社会を変えていきたいから私たちも変わり続ける

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2022年、東海若手起業塾は運営体制を一新しました。東海地区を取り巻く情勢も、起業家に求められる力も大きく変わる中、次のステージへの一歩を踏み出そうとしています。前代表の毛受芳高さん(一般社団法人アスバシ代表理事)と、新代表理事に就任した佐藤真琴さん(株式会社PEER代表取締役)が、東海若手起業塾の歩みをふりかえり、これから目指していく姿について語ります。

 

 

起業家と共に育つプラットフォームとして

 

毛受:東海若手起業塾は2008年に、100周年を迎えたブラザー工業株式会社(以下、ブラザー)の記念事業の一環として始まりました。創業者である安井正義さん、実一さんも20代になったばかりの頃にミシン製造の会社を起こした「若手起業家」だったのです。

 


東京のNPO法人ETIC、名古屋のアスクネット、岐阜のG-netなど、ソーシャルビジネスやコミュニティビジネスの起業や運営をサポートする団体からなる実行委員会が起業家を育ててきました。

 

佐藤:私は東海若手起業塾の一期生です。抗がん剤治療などの副作用で髪が抜けてしまった方向けのウィッグ(かつら)の販売と、専門の美容室を経営する会社を浜松市で立ち上げて5年ほど経った時でした。

 

▲東海若手起業塾 1期の頃の佐藤さん

 

こうした美容室は他になかったため、お客様の中には新幹線や飛行機に乗って訪れる方もいらっしゃいました。来ていただけるのはありがたい反面、本来ならば患者さんのもっと身近な場所に手ごろな価格でウィッグが買えたり、病気の悩みを話せる美容室があるべきだと考えていました。しかし、他の地域でどう事業を展開していけばいいのか分からずにいる状態でした。

 

東海若手起業塾では、初めてお客様以外の人に事業の話をし、評価していただくという経験をしました。今ではさまざまな起業支援のプログラムやコンテストがありますが、当時はほとんどありませんでした。

 

私の話に経験豊富な起業家の大先輩や大企業の方が真剣に耳を傾け、その価値を認めてくださる。本当にセンセーショナルな体験でした。もちろん耳の痛い指摘もありましたが、的確で具体的な助言をいただき、次のステップへの扉がどんどん開いていくように感じました。

 

 

しかも、東海若手の支援チームは起業家と一緒に考えて、動いてくれるんですね。ブラザーの担当者の方が浜松まで来られたときには本当に感激しました。何よりも支援チームの皆さんの姿から、起業家としてのあり方を学んだことがこれまでの私と事業を支えてくれています。

毛受:起業家にコーディネーターやメンターが付いて、プロボノやボランティアを含めたチームで汗をかくというのは、東海若手起業塾の大きな特徴ですね。

 

これまでに59組の起業家が卒業し、佐藤さんのように東海4県で活躍しているということ。そして、卒業生がつながって若手起業家のネットワークができていることが、現時点までの東海若手起業塾の成果だと考えています。

 

▲10周年イベントの東海若手起業塾OBOGセッション

 

起業家自身が育てるコミュニティへ

 

-2022年度から東海若手起業塾の運営体制を一新し、佐藤さんが代表理事に就任されるほか、卒業生の皆さんが理事に就任されるとお聞きしました

 

毛受:複数の団体が集まる実行委員会型式では、それぞれの団体の強みを持ち寄って運営できるというメリットがある一方で、事業を大胆にアップデートしていくための推進力やリーダーシップが生まれにくい面もあると感じていました。

 

 

佐藤:この地域のためにという強い思いを持ってさまざまな困難を乗り越えつつ、前例のない仕組みを作り上げ、15年近くも続けてこられただけでも、東海若手起業塾は本当にすごいと思います。

 

ただ、私も長く関わってきて、運営がやや属人的になっていると感じることもありました。起業家に成長の機会をもたらす仕組みを持続可能にしていくためには、東海若手で育ててもらってきた人たちが中心となり、団体のあり方を考えていくべきではないかと思ったんです。

 

毛受:佐藤さんや2期生の北村隆幸さん(NPO法人ぶうめらん代表理事)、3期生の安形真さん(合同会社アグリホック代表社員)、4期・5期を受講された奥田順之さん(NPO法人人と動物の共生センター代表理事)たちが「私たちがやります」と、理事を引き受けていただいたときには「これが最高の形だ」と思いました。

 

もっと起業家のニーズに合ったサービスを提供していかなければ東海若手は次のフェーズに行けない、と考えていたのですが、それをOG・OBたちが喫緊の課題と捉え、率先して取り組んでくれているんですね。

 

佐藤:東海若手起業塾が無ければ、今の私たちはありません。自分たちはこの塾にどう貢献するのか、ということは常に考えていました。私たちOG・OBはいわば東海若手起業塾の「成果物」。最も東海若手の良さを見出している私たちこそが、価値を伝えていかなければと思っています。今までの東海若手が「起業家を“外”の人たちに育ててもらうところ」だとしたら、これからは「修了生自身が自分たちのコミュニティを育てていく場」にしたいと考えて手を挙げました。新理事たちは各々の専門性を活かして、すでに新しい助成プログラムを作る計画などを具体的に進めています。

 

だからといって、毛受さんやこれまで運営に関わっていただいていた方がお役御免となるわけではありませんよ。(笑)いろいろな人が寄り合って運営するという点では変わりませんし、私たちが代表や理事となって組織の上に立つというよりは、運営を設計するポジションにコンバートしたという認識です。

 

 

「社会を変える」というコアバリューを明確に

 

毛受:運営体制が刷新されたからこそ変えられた面も大いにあります。設立当初からの「地域や社会に真に必要とされる起業家を育てる塾」というコンセプトを、今年からは「私たちにできる社会の変え方を学びたい人のための塾」と変えましたよね。

 

佐藤:「地域に必要とされる起業家になる」は確かに私たちの目標ですが、特に私たちが出会いたい起業家から見た時には「何を学ぶのか」「どう変われるのか」が分かりづらいと感じました。

 

 

毛受:2008年当時の東海地域は、大企業が多く安定志向が強い土地柄のせいか「起業家が生まれにくい地域」と言われていました。ましてや「社会的起業」はまだ多くの人にとっては耳慣れない言葉でしたから、「起業」や「ソーシャルビジネス」と言わずとも、取り組みを広く理解していただくための言葉を選んだところもあったと思います。

 

今ではビジネスの手法で社会課題を解決したいと考える若者は珍しくありませんから、時代は大きく変わりましたね。

 

佐藤:起業を支援する場や団体もたくさんある今、東海若手起業塾が選ばれるのは「社会の変え方」を学ぶ場であることに他ならないと考えます。

 

起業支援というと「事業者」のサポートをするものと思われがちですが、東海若手起業塾はあくまで顧客や、困りごとを抱えた人にとって何が一番必要なのかを中心に据えた支援をしています。課題を解決し、同じ課題が再び社会に発生することのない仕組みをつくる一連のプロセスをビジネスとして成り立たせながらやっていく、それが「社会を変える」ことにつながると考えているからです。

 

また「地域に必要とされる起業家」をゴールにすると、起業家がプレイヤーにとどまってしまうとも考えていました。「社会を変える」起業家は、パブリックセクターに対して「こんな社会がいいよね」という提案ができる人だと考えています。自社の成長だけにフォーカスすることなく、地域や業界のルールや空気を変えていける起業家を目指して欲しいという願いも持っています。

 

社会を変えるエコシステムをより豊かに

 

 

-これからの東海若手起業塾が取り組んでいきたいことや、これからの東海若手起業塾に期待することを教えてください。

 

佐藤:変化を恐れないでいたいと思います。私たちが受け取ってきたものはしっかり伝えつつ、プログラムの内容や支援の手法はより良く変えていっていいと感じています。起業家の皆さんと同じように、東海若手起業塾自身も常にチャレンジを続けていく塾でありたいです。

 

毛受:起業家とメンターに加えて、東海若手起業塾で重要な役割を果たしているのはプロボノの人たちなんですよね。企業に所属しながら起業家を応援したり、社内のリソースを使って新事業を起こしたりすることも「社会を変える方法」の一つです。ブラザーのプロボノチームの皆さんはそれを体現してきたわけです。

 

 

これからは起業家も東海若手起業塾も、ブラザーさんをはじめとする企業とのつながりをより生かしていくなど、地域の生態系を広く見据えた活動できるようになるといいと思っています。私は大学生や高校生が起業家と出会う機会を作れないかと考えているのですが、生態系を豊かにしていくような活動も頑張っていきたいですね。

 

佐藤:今やどんな企業も、社会に対して責任を果たしているかが厳しく問われるようになっていますよね。さまざまな企業の人たちが東海若手に来ている社会起業家と対話する機会はますます重視されてくるでしょう。起業家にとっては、自らが解決したい社会課題や事業の価値を、より多くの人に伝えられる力がますます求められていると言えます。それは現役の塾生だけではなくて、卒業した後もずっと学び続けなければならないことでもありますよね。

 

 

東海若手起業塾は若い起業家にとっての気づきや出会いの機会を提供すると同時に、「社会を変えたい」と考える人たちのリカレントの場ともなっています。重要な場を預からせてもらっている責任をしっかり受け止めつつ、これまでに東海若手起業塾が培ってきたネットワークとチームワークを大切に、多くの人たちと一緒に進んでいきたいと思います。

 

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以上、毛受芳高さんと佐藤真琴さんのインタビューでした。

 

今後の東海若手起業塾にもぜひご期待を、また、共に社会を変える一員として、一緒に進んでいただけると嬉しいです。

 

組織体制のリリースに関しては、東海若手起業塾(協賛:ブラザー工業株式会社)の代表理事及び理事変更のお知らせをご覧ください。

東海若手起業塾(協賛:ブラザー工業株式会社)の代表理事及び理事変更のお知らせ